なぜ世界遺産登録にこだわる?その経済効果とは

先日、前方後円墳でおなじみの仁徳天皇陵古墳を中心とする「百舌鳥・古市(もず・ふるいち)古墳群」(大阪府)が2019年日本からの世界遺産登録推薦枠に決定し話題となった。(前回の記事はこちら

「世界遺産」というブランドは、誰がどう考えても“見るに値する名所”であると世界的なお墨付きをもらえるようなもの。観光誘致要素としてはこれ以上のブランディングはないかもしれない。知名度が上がればまちおこしとしての地域経済効果は大きい。

しかし一方で、世界遺産に選ばれるまでも、また選ばれた後はそれ以上に、現状維持と向上のための保全事業費が想像以上にかさむハズ。観光客への安全性、ユニバーサルデザイン導入、訪日外国人客対策、専門家による継続調査、案内標識整備、案内(通訳)ガイド確保に駐車場などなど・・・素人目に見ても手放しでは喜べない問題が山積み。

それらを差し置いても“世界遺産”に選ばれることでどれほどのうまみがあるのか、その経済効果をざっくり探ってみました。

観光客の推移

以下は、観光庁の「宿泊旅行統計調査」に基づいて作成したもの。(クリックして拡大可能)
宿泊を伴う観光客数(訪日客含む)を都道府県別に集計したもの。47都道府県のうち、世界遺産に指定された24都道府県をピックアップ。

観光客宿泊数推移 グラフ
観光庁「宿泊旅行統計調査2007~2016年」よりまとめ
【グラフ上の注意事項】
・出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」2007年(平成19年)から2016年(平成28年)までの「観光目的による延べ宿泊者数」(うち外国人客含む)
・単位は1,000人
・2007年以前のデータは不在
・本データは総務省「事業所・企業データベース」を基にした従業者数10人以上のホテル、旅館、簡易宿所の全数調査。ただし、2010年より9人以下の小規模宿泊施設も対象(サンプル調査)となった都合、2010年以前と2010年以後で数値のかい離あり
・破線は1900年代に登録された世界遺産の保有府県、実線は2000年代に登録された世界遺産都道県
・折れ線グラフ上の●点の位置が登録年

本来的には、世界遺産を保有する市町村にまで絞り込んだ方がより実態がつかめるのですが、そこまでの気力がありませんでした。ごめんなさい(汗)細かい数値は出所元をたどってください。
(観光庁には「共通基準による観光入込客統計」という統計もありますが、都道府県によって導入時期がバラバラかつ未集計地域が多いので今回は不採用)

パッと見た感じでも、世界遺産登録を境に急激に観光客が拡大しているかというとそうでもない。東京都は、小笠原の登録を機に急速に伸びているように見えるが、おそらく要因はそれだけではないはず。2015年の長崎軍艦島と2011年の岩手平泉は瞬間風速的に伸びたものの一時的という感じ。

全体的にどの地域もゆるやかに右肩上がり。何となく、この統計だけでは世界遺産効果を見いだせない。

実際の経済効果は

では、実際の地域への経済効果はどうなのか。以下、6件を例にとると、

■「屋久島」の場合:244億円

1993年12月に登録された鹿児島県沖合に浮かぶ屋久島。環境省の調査によると、屋久島への入込客数は登録初年の1993年には20万人規模だったものが15年後の2008年に40万人を超えピークに。その後は30万人前後まで落ち込むが、サービス業の生産額をみると2001年で219億円だったのが2011年に244億円まで拡大している。また、屋久島町によると一人当たりの消費額から算出される観光客6万人増に当たる経済効果は30億円と試算している。

★参照:環境省屋久島自然遺産センター「屋久島世界自然遺産 登録の効果と課題(H26.10.25)」
★参照:屋久島町役場「屋久島町観光基本計画(平成28年3月)

■「知床」の場合:134億円

2005年7月に登録された北海道の知床。2013年度の斜里町役場の調査によると、登録初年度は160万人規模だった観光客数はその後110万人規模に減少、しかし直接的な観光消費額は130億円で間接的なものも含めれば200億円以上が見込まれると試算する。

★参照:北海道斜里町役場「斜里町観光振興計画(平成27年6月)

■「石見銀山」の場合:81億円

2007年に登録された石見銀山。登録前は約40万人推移だった観光客数は、登録翌年の2008年の81万人をピークに2012年には43万人まで減少。登録初年度当時の観光収入が前年度比1割増の81億円程度だったということは、思惑ほど大きな経済効果は見込まれなかった結果に。

★参考:山陰中央新報「石見銀山観光収入 1割増の81億円」(2008年3月6日配信)

■「平泉」の場合:63億円

2011年6月に登録された岩手県の平泉。一般社団法人 岩手経済研究所の調査結果によると、観光客増加数60万人、経済波及効果は63億6,000万円にのぼったという。

★参考:トラベルボイス「「あまちゃん」効果で観光入込客34.4万人、観光消費額は30.6億円と推計」(2013年8月20日配信)

■「富士山」の場合:194億円

2013年6月に満を持して登録にこぎつけた「富士山」。2014年7月、関東財務局甲府事務所の公式発表によると、富士山の世界遺産登録により日銀甲府支店の推計では194億円、少なく見積もっても100億円の経済効果があった。

★参照:財務省 関東財務局「富士山の世界遺産登録による経済的効果」(2013/9/30配信)

■「富岡製紙工場」の場合:34億円

2014年6月に登録された群馬県の富岡製紙工場。群馬経済研究所の2013年11月調査報告によると、登録前に比べ観光客は45万人増で34億円の経済効果が見込まれると試算された。その後の調査で、2013年は32万弱だった観光客数が2014年は約5倍の135万に膨れ上がり経済効果はもっと上になる可能性も。

★参照:一般社団法人 群馬経済研究所「「富岡製糸場と絹産業遺産群」が世界遺産登録された場合の経済波及効果について」(2013年11月号)

世界遺産登録前後の観光収入の推移などを見ていないので何とも言えないけれど、値だけ見ると確かにそのインパクトは大きい。おそらく小さな役場や市町村であればなおさら。特に自然遺産にからむ経済効果が100億円を超え注目に値する。

しかし注意すべきはこれらは単年度の経済効果の側面が強い。瞬間風速で観光客が増加してもその後は客足が伸び悩み、あるいは尻すぼみに至るケースも少なくない。とすると経済効果は限定的・・・。

ユネスコは登録してくれるだけ。補助はしてくれない

国連教育科学文化機関(ユネスコ)はあくまでも世界遺産にふさわしいと審査し、認定してくれるだけで、認定されたからといってユネスコから補助金などが出るわけではない。保全に係るメンテナンス等の一切は自前である。

しかし、文化財保護法や自然公園法などのもと、保全に係る事業費の約半分は国が負担することになっている。そのため、県や地方自治体が負担するのはその約半分。たかが半分、されど半分、保護対象の規模が大きければ大きいほど地方の負担は計り知れない。

観光客が来ようが来まいが、世界遺産というブランドを維持するためには継続したメンテと改善が必要(観光客誘致のために景観を乱したり、インフラが未整備だと剥奪されることもある)。“お墨付きをもらった、バンザーイ♪”では終わらないのである。

知名度が上がれば持ちあがる問題

2016年で訪日外国人観光客は2,400万人を突破した。統計開始の昭和39年の35万人からナント約68倍!東京オリンピックに向け、ますます伸びることが予想される。

世界遺産だけの問題ではないが、知名度と共に浮上する問題は、「観光客のマナー」「多言語対応」「駐車場などのアクセス」そして観光客誘致に躍起になるばかりに「そもそもの景観美が損なわれる」本末転倒リスクだと思う。

日本は狭い、使える人材は限られている、世界の人は寛容ではあるが日本人ほど几帳面ではない。景観を保全し、日本ならではの「おもてなし」のクオリティを維持するにはものすごい労力とお金と根気が必要。

で、ものすごく個人的な結論

まちおこしの起爆剤に世界遺産を使うのは、地方自治体にその体力と地域一丸となってやり遂げる強い意志があるならいいのではないかと思います。「世界遺産」はまぎれくもない世界最大の観光ブランド。

ただ、世界遺産には、正直、「え?こんなもの?」と思うものがあったりするのが現状。どれだけ考古学的価値、歴史的価値、文化的価値があってもリピートには至らないとか滞在時間短めになることもしばしば(タージマハルとか・・・まぁ、これは好みなのでわたしだけかもしれないですが)。

前述の通り、世界遺産登録にはお金も労力も時間も異常にかかるようなので、もし自然保護や文化保護を叫ぶ裏で、知名度向上に伴う地方財政の一発逆転を狙う算段があるのであれば、バクチに走らず、その浮いたお金で地に足の着いたまちおこしPRを積極展開した方がよほど賢い選択だろう、と思いました。

世界遺産なんてブランドなくても、行きたくなる理由が見つかれば自然と観光客はついてくるので。(岐阜の根道神社とか千葉の濃溝の滝とか福岡の河内 藤園とかその類)

底の浅い考察でゴメンナサイ。

終わり

その他参考にしたサイト

・日経トレンディネット「「世界遺産」の光と影、経済効果34億円でも整備に100億円!?」(2014/08/20配信)
・日経スタイル「世界遺産、いいことずくめ? 活性化に期待、生活に制約も」(2012/1/9配信)
・日経トレンディネット「登録数、経済効果…意外と知らない日本の世界遺産」(2011/08/09配信)
・産経WEST「「世界遺産効果」薄れた石見銀山 課題は魅力発信」(2017/7/1配信)



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